大判例

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東京高等裁判所 平成11年(う)2076号 判決

被告人 株式会社ソウルトレーディング 外一名

〔抄 録〕

論旨は、要するに、原判示第二について、原判決は、銀行法二条二項二号の「為替取引」は「隔地者間で直接現金の送付を伴うことなく資金を移動する仕組みで行われる取引行為を包括的に指すものと解される」とした上で、被告会社及び被告人(以下両者を併せて「被告人ら」という。)の本件行為は「為替取引」に当たると判断したが、これは法令解釈を誤ったもので、罪刑法定主義に悖り、憲法三一条、三七条一項に違反し、また、事実の誤認もある、というのである。

所論にかんがみ検討する。

一 憲法違反、法令解釈の誤りの主張について

所論は、刑罰規定としての銀行法に関する原判決の前記の判断は、法令の解釈を誤り、ひいては憲法にも違反するというのである。

そこで検討すると、銀行法が「為替取引」を銀行の基本業務の一つとしたのは、隔地者間における、送金ないし支払決済という特殊の機能を有する資金授受の媒介は、媒介となる機関の信用によって行われるべきものであり、預金や貸付と同様利用者を保護する必要が大きいためであるから、原判決の「為替取引」の意義に関する前記の解釈は、銀行法の目的に照らし正当として是認できるところである。そして銀行法にいう「為替取引」の意義は明確性を欠き、これを無免許で行った行為を処罰する同法六一条は憲法に違反する旨の原審弁護人の主張に対して、原判決は、銀行法二条二項二号にいう「為替取引」とは右のように解されるとした上で、「このように解することは、通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うものであり、そのような一般人の理解において、具体的場合に当該行為が『為替取引』に該当するか否かを判断することが可能であることは明らかであるから、同法六一条は、罰則規定としての内容の明確性に欠けるところはなく、同条が憲法三一条に違反しないことは明らかである」旨説示をしているところ、右説示も、正当として是認できる。所論は、銀行法は「為替取引」の内容規定を欠いているから、現行法の処罰規定は「法自体が、処罰される輪郭を具体的に構成要件事実として特定されていない」いわゆる白地刑罰法規であり、また、「為替取引」についての原判決の右解釈は、銀行取引の実務上の概念にすぎず、法令上の根拠は存在しないばかりか、一般人に認知された概念でもない、というのである。銀行法が「為替取引」について、特段の定義規定を置いていないことは所論指摘のとおりであるが、右「為替取引」の意義は解釈上明らかなのであるから、定義規定を置くことなしに、これを免許を受けずに銀行業として行うことを処罰する規定が、所論のいうような意味での白地刑罰規定ということはできない。また、「為替取引」の意義を原判決が説示するように解することは、銀行実務の取扱いに合致したものであり、一般人においても右のような理解が可能なのであるから、これを免許を受けずに銀行業として行うことを処罰する旨の規定が、刑罰規定として明確性を欠くといえないことも明白である。その他所論が、銀行法に関する原判決の解釈は、罪刑法定主義に反し、憲法三一条、三七条一項に違反するとしてるる主張する点についても検討を加えたが、いずれも独自の立論に基づくもので前提を欠いた主張というほかない。原判決に憲法違反を含む法令解釈の誤りがある旨の論旨は採用できない。

二 本件行為が銀行法の「為替取引」の要件に該当しないとの主張について

所論は、原判決が、「日本にいる送金依頼人と韓国にいる受取人らとの間では現金の送付が伴っていない」、「韓国にあるイ・ヨンノ名義の銀行口座に電信送金してプール資金を作っている」と説示して、本件行為が「為替取引」に当たるとしているが、送金依頼人と日本にある韓国の銀行(所論のいう仕向銀行)との間では現金の授受は行われているし、被告人らは送金の委託を受けて一括して被告会社名義でイ・ヨンノ名義の口座のある韓国にある韓国の銀行(所論のいう被仕向銀行)に電信送金し、送金された金額は依頼人が指定した口座に入金されており、被告人らが現金に触れ、資金をプールする余地はないのであるから、原判決には、この点で、事実の誤認があるというのである。

検討すると、本件の送金システムは、関係証拠によれば、原判決が適切に説示するとおり、被告会社は、日本にいる韓国人らから韓国への送金の依頼を受けると、被告人名義の銀行口座などに日本円を振り込ませ、これら送金受任額を被告会社名義の銀行口座にいったん集約し、これを韓国の銀行の東京支店に開設した被告会社名義の口座に振込入金した上、その口座から引き出した現金を被告会社に帰属する韓国にある「ソウル企画」イ・ヨンノ名義の銀行口座に電信送金してプール資金を作り、これと併せて、韓国にいる李龍魯にファクシミリで送金依頼人の氏名、送金受任額、韓国の送金先銀行口座等を連絡し、同人に送金依頼人の指定する受取人名義の銀行口座に送金受任額相当額を韓国ウォンで入金させる、というものであり、原判決の認定事実に誤認はない。

そうすると、日本にいる送金依頼人と韓国にいる受取人との間では現金の授受が行われているとはいえないし、被告人らは送金依頼人らから送金の委託を受け、これらの委託金を一括して被告会社名義で韓国にあるイ・ヨンノ名義の銀行口座に電信送金し、そこから個別に送金依頼人の指定する韓国の受取人名義の銀行口座に韓国ウォンで入金しているのであるから、イ・ヨンノ名義の銀行口座に電信送金してプール資金を作った旨の原判決の説示に誤りはない。所論は、「為替取引」にいう「隔地者間で直接現金の送付を伴うことなく資金を移動する仕組みで行われる取引行為」とは、所論のいう仕向銀行と被仕向銀行との間で行われる行為についてみるべきであり、被告会社が行った行為自体について「為替取引」の要件が介在する余地はないというのである。しかし、被告会社は、送金の委託を受けて、日本にいる送金依頼人と韓国にいる受取人らとの間での直接現金の輸送を伴わない資金の移動を、所論のいう仕向銀行と被仕向銀行とを単なる送金事務及び受取人への支払事務遂行のために介在させて実行しているのであるから、被告会社が「為替取引」をしたことは明らかである(所論が日本にある韓国の銀行を仕向銀行とし、韓国にある韓国の銀行を被仕向銀行とするのは、本件の事実関係に照らし誤りである。)。実質的にみても、本件送金システムにおいては、送金業務は被告人らの経済的信用によって行われているというべきであって、受取人への送金の成否は、被告人らの経済的信用に依存するものである。被告人らの本件行為は、所論がいうような単なる送金手続代行行為にとどまるものではないといわなければならない。

「為替取引」を原判決のいうような趣旨に解しても、被告会社の行為は「為替取引」に当たらない旨の所論は採用できない。

(吉本徹也 岩瀬徹 沼里豊滋)

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